台風19号における荒川区の対応についての総括
令和元年10月12日から同13日にかけて関東地方に超大型台風19号が上陸しました。
被害に遭われた方々には、心よりお見舞い申し上げます。
目次
- 荒川区では物的被害はあるも、人的被害は報告なし
- 荒川区の被害状況
- 荒川区の災害対応
- 災害に対する警戒レベルは5段階
- 荒川区で発令されたのは警戒レベル3「避難準備・高齢者等避難開始」
- 荒川区の情報発信には大いに問題がある
- 情報の重要性
- 多くの地域で避難勧告が出ていた
- 地域によって状況が違う
- 安全と安心は違う、同様に危険と不安も違う
- 主な課題は2つ
荒川区では物的被害はあるも、人的被害は報告なし
荒川区の被害状況
・人的被害 報告なし
・物的被害 41件報告(外壁等19件、倒木9件、屋根剥離5件、冠水2件、停電1件、道路への飛散物5件)
・停電 町屋七丁目で約600戸(1時間程度で復旧)
・区施設に窓ガラス破損、河川敷内施設等で水没(復旧済)
・民地の木に傾斜あり
荒川
荒川区の災害対応
今回の19号に対して、当初荒川区は、その前の大型台風15号の印象に引きづられて、「風台風」を想定していたようです。
結果として、19号は「雨台風」であり、水害対応すべき台風でした。
事前の構えとして、バイアスがあったことは事実のようですが、その結果対応に不備があったのでしょうか。
結論から言えば、水害対応は概ね適切であったと思います。
水害の最大の懸念である河川の氾濫に対しては、よく管理し、警戒レベルの発令も妥当だったからです。
災害に対する警戒レベルは5段階
警戒レベル1(気象庁発表)
災害への心構えを高める
警戒レベル2(気象庁発表)
避難行動の確認
警戒レベル3(市区町村発令)
避難準備・高齢者等避難開始
警戒レベル4(市区町村発令)
避難勧告・避難指示
警戒レベル5(市区町村発令)
災害発生
これらは段階的に上がっていくことになります。
警戒レベル5は既に災害が発生している状況である為、その前のレベル3、レベル4の段階で避難が完了していることが重要になります。
荒川区で発令されたのは警戒レベル3「避難準備・高齢者等避難開始」
さて、今回の台風19号で、荒川区は警戒レベル3「避難準備・高齢者等避難開始」を発令しました。
この「警戒レベル」ですが、レベル3からレベル4になる時に明確な基準があります。
荒川区の場合、隅田川の入り口・岩淵水門の危険水位は7.7Mとされています。
この水位を超えた場合に、レベル4「避難勧告・避難指示」が出ます。
今回の水位は7.17M、ギリギリですが、レベル4の危険水位には達していない為、「避難勧告・避難指示」は発令されませんでした。
結果的に、水害が発生しなかったこととは別に、荒川区の水害に対する管理・対応は適切であったと言えます。
荒川区の情報発信には大いに問題がある
警戒レベルの発令に関しては適切だとは申しましたが、荒川区の対応が完璧であったかと言うと、残念ながらそうは言えないと考えています。
台風19号に際して、荒川区では特に尾久地域を中心に「自主避難場所」に関して多くの混乱を起こしました。
当初、ひろば館・ふれあい館合わせて18箇所を「自主避難場所」として設置していました。
ところが、尾久ふれあい館への避難者の増加が見込まれた為、アクト21を「自主避難場所」として開設。
さらに、荒川の水位上昇を踏まえ、万が一に備え、急遽、小中学校34箇所を順次開設しました。
土砂災害警戒区域の避難場所としては諏訪台ひろば館・開成学園・日暮里サニーホールを開設しました。
最終的には56ケ所、これら避難場所には、延べ1461人が避難しました。
この、1461人という人数は発令した警戒レベルから考えれば、非常に多い人数となっています。
荒川区の想定も大きく超えた避難者数であり、これが今回の最も大きな混乱と言えると思います。
なぜ、このような事態になってしまったのでしょうか。
情報の重要性
それだけ地域によって危険性に於ける状況が違うことを意味します。
多くの地域で避難勧告が出ていた
特に今回は、テレビなどの大手マスコミは危機感を煽る傾向の報道をしていました。
実際、全国的には災害が発生した地域もあった為、日本全国をカバーする大手マスコミが最も危険度の高い地域を基準に情報発信し、避難を促すのはもしかしたら当然なのかもしれません。
一方で、局地的にはそこまでの危険はなく、落ち着いて経緯を見る方が危険が少ないレベルの地域もあります。
その為、警戒レベル3発令以降の情報に関しては各自治体の出す情報の優位性を確保しなくてはなりません。
地域によって状況が違う
今回の荒川区がまさに局地的に特殊な状況でした。
未だ、河川の氾濫の危険性が低い段階で、風雨の中を屋外に移動するよりも、屋内で状況を見守る方が危険が少ない状況でした。
しかし、これから状況がさらに悪化し、避難を必要とするかもしれないので「避難準備」、いざ避難になった時に時間がかかる高齢者等は先行して避難する「高齢者等避難開始」だったのです。
そうは言っても一方で、テレビでは避難勧告が発令された地域があると報道される中で、荒川区は避難準備のままです。
特に今回は、隣区の北区・足立区・文京区で避難勧告が出ていた中での荒川区の避難準備ですから不安だったのは当然のことです。
周辺区や国土交通省から避難を促すエリアメールが荒川区内にも配信されたり、大手メディアでは自治体の避難情報を待たずに避難すべきと言った報道もありました。
情報が錯綜する中で、荒川区は自身の情報発信の優位性を確保できていたのでしょうか?
安全と安心は違う、同様に危険と不安も違う
そもそも、河川の氾濫に対する警戒レベルは、河川ごとに設定された危険水位に鑑みて発令されます。
北区・足立区・文京区の避難勧告はそれぞれ、石神井川・荒川・神田川が危険水位を超えたことによって発令されました。
荒川区の場合は、前述の通り、隅田川の岩淵水門の水位を見ています。
これに関して、「あれ?荒川の危険水位は関係ないの?」と思われる方もいらっしゃると思いますが、現在の荒川は人工河川で、利水治水の設計上、右岸と左岸で事情が異なります。
左岸に位置する足立区等は荒川の危険水位を見て避難勧告が出ますが、右岸の荒川区では荒川の氾濫による被害はまた別次元のものになります。
荒川区と同じく荒川右岸に位置する北区も、荒川の水位によって避難勧告が出たわけではなく、石神井川の水位によるものであるのはこの為です。
これら、警戒レベル発令の根拠が明らかなだけでも不安の度合いはかなり違っていたと思います。
安全は厳然たる事実です。危険も同様です。
ところが、安心や不安は心理的な要素です。その事実の認識の仕方によって大きく変わってしまいます。
安全なのに不安であったり、危険なのに安心していたりしてしまうことは簡単に起こります。
この事実と認識のズレを修正し、危険を避けて安全を確保し、不安を取り除き安心を得るには、やはり正しい情報が必要になります。
せっかく安全なのに不安になり、誤った行動で危険に晒されたり、パニックを引き起こしたりする事を避けるには、信頼できる情報が必要になります。
今回の最大の失敗は情報発信が弱かった点だと考えています。
荒川区では、防災に向けての情報発信のメディア・ツールとして6つのチャンネル
を持っています。
・WEBサイト(荒川区公式ホームページ)
・ツイッター
・フェイスブック
・メールマガジン
・CATV(ケーブルテレビ)のテロップ表示
・dボタンによる災害情報(荒川区選択で)
今回はこのうちの3つ、ツイッター・フェイスブック・メールマガジンでは主にWEBサイトへの誘導を行い、WEBサイトで一元的に情報発信を行っていた為、せっかくある6つのチャンネルも、正味WEBサイトとCATVとdボタンの3つになってしまいました。
ツイッター・フェイスブック・メールマガジンの持つ即時性をうまく活用できないばかりか、WEBサイトへ誘導したことで、残りの3つのチャンネルのうちの1つ、WEBサイトのサーバーを一時的とは言えダウンさせてしまいました。
つまり、結果的に19号の接近から通過の期間を完全にカバーしていたのはCATVとdボタンによる災害情報だけだったことになります(これも停電中は不能に陥ります)。
主な課題は2つ
・自主避難場所の適切な設置と運営
・情報発信の強化
それぞれ今回混乱や不具合の起きた案件ですが、相互の関係性もあるのかも知れません。
いずれにせよ、課題は改善し、区民の安全を確保できる体制を強化していく活動に終わりはありません。