政治入門⑥カレー味のジレンマ再び
目次
- 日本国政府株式会社取締役代表者選挙
- 供託金・年齢制限なし
- 立候補者の乱立
- 予兆
- 解散から公示まで
- 選挙戦、そして投票日へ
- 投票に迷わない!
- 旧与党の分裂から再選挙
- 再々選挙
- 4ヶ月にわたる国政選挙
- けしからんが足りない
日本国政府株式会社取締役代表者選挙
供託金・年齢制限なし
ここでは、私の妄想の産物である日本国政府株式会社の取締役会を見ながら被選挙権を考えたいと思います。
日本国政府株式会社においては、取締役会の唯一の仕事が代表者を選ぶことです。
つまり、取締役会とは実質的に選挙とほぼ同義です。
日本国政府株式会社取締役代表者選挙、略して『国政選挙』です。
全取締役約1億人が立候補者の中から465人の代表者を選出します。
ちなみに国政選挙は取締役なら誰でも立候補できます。
選挙権と被選挙権のセットが18歳以上である取締役としての権利です。
供託金もありません。
立候補者の乱立
カレー味解散から3週間後、選挙が公示され、さらに12日後選挙が行われました。
結果から申しますと、私自身の投票棄権はただの危惧で終わりました。
結果的にちゃんと投票しました。
しかも、かなり納得のいく投票ができたと思っています。
さて、カレー味選挙で何があったのでしょうか?
465人の議席に対して全小選挙区・比例区合わせて約3万人の取締役が立候補者として手を挙げました。
前回選挙のおよそ20倍です。
10代 3%
20代 21%
30代 27%
40代 18%
50代 19%
60代 9%
70代以上 3%
解散の後、最も注目を集めたのは、旧代表者達ではありませんでした。
解散から公示までの3週間で、続々と新党が立ち上がったことから始まりました。
実は解散以前から予兆はありました。
予兆
WEBサイトやSNSではずいぶん前から政治系コンテンツが一定の収益性を確保できるジャンルとして徐々に数を増やしていました。
決して大人気コンテンツというわけでも無かったのですが、エンタメとして一定の需要がありました。
政治系コンテンツは主に2系統に分類されます。
比較的組織的なWEBメディアと言った形態を取る傾向があります。
源流は「保育園落ちた、日本○ね!!!」だったという説が巷で囁かれていますが、やや時代が違うので真偽のほどは定かではありません。
一部のデバッグ系インフルエンサー達は、会社からの迷惑の憂さ晴らしに現場の窓口に突撃して逆に迷惑行為を行いそれを公開して炎上したりして一時は社会問題にまでなりました。一方でサービスの現場や迷惑を被った被害者の株主を取材したり、あるいは当事者の株主自身が自らの言葉で窮状を訴えたり、法律家に相談に行って現場のサービスの状態が社則違反ではないか意見を聞いたりと、身近な課題を取り上げるコンテンツとして多くの株主の共感を集めたりもしました。 極々少数の取締役の受けるレアケースでの迷惑フィードバックは共感と共に、主に年少の株主にとっては、人間が営む社会という自然に対する知的好奇心を喚起するきっかけにもなっていたりもします。
どちらかというと個人や少人数で運営するSNSアカウントが担い手です。
解散から公示まで
そして、いよいよ解散となった瞬間彼らは具体的に行動に出ました。
立候補の意思表明コンテンツの配信です。
ここから最も注目を集めたのは、デバッグ系インフルエンサー達(以下デバッガ)でした。
解散と同時に、各種SNSのデバッガを中心にそのフォロワーである若い取締役達が、一斉に全国の迷惑フィードバックを各SNS上で集約し始めました。
そして、WEB上に実に1000個以上もの迷惑フィードバックリスト(以下『迷リス』)を作り上げていったのです。
そして、ここからデバッガはそれまでの選挙の常識を覆す驚きの動きを見せました。
デバッガ達は迷リスの各項目につき一つの政党を作りました。
そして、迷リスの各項目まんまの政党名を付けて届け出ました。
『小四の壁をぶっ壊す党』
『街の自転車駐輪場増やせ防犯性高めろあと隣の自転車とガチャつくの何とかしろ党』
『小学生のランドセルを軽くする党』
『義務教育の個別最適化を進める党』
『婚姻は2人の合意のみに基いて成立させたい党』
のように、国政政党の課題なのか?課題カブってない?とかあまり気にしてません。
また、具体的な解決策とかでもありません。
本当に迷リスそのものです。
政党化に伴い、迷リスの整理もある程度は進みました。
それでも、結果的に500近いワンイシュー政党が成立しました。そして、それぞれの政党は取締役であれば全くの無条件で公認を出しました。
結局、全ての小選挙区で平均70以上のデバッガ系ワンイシュー政党から平均100人近い候補者が出馬しました。
選挙戦、そして投票日へ
選挙の公示からいよいよ選挙運動が始まりました。
デバッガ候補者は、選挙期間の一切の活動のステージをWeb・SNSに全振りしました。
デバッガ候補者は、WebやSNS上でコンテンツを配信することで自身の政策と支持を訴えましたが、そのコンテンツのお作法は正統なデバッガそのものでしたから、真面目な取締役達からは批判の対象となりました。「売名だ!」「目立ちたいだけだろ!」など非難轟々でしたが、当の本人たちは「まあそれがインフルエンサーだし」「何かまずいの?」ってスタンスでスルーし続けました。
最終的に「取締役達に支持されなければただ落選するだけだし、支持されたらそれで良しが民主主義の選挙だろう!」的な公式コメントを表明しましたが、それすらも「開き直りだ!」って叩かれました。
そして、そんな中、いよいよ投票日を迎えました。
投票に迷わない!
WebやSNS上で大いに盛り上がったデバッガによるワンイシュー政党祭りは、結果的に多くの取締役達の投票意欲を刺激しました。
投票率は小選挙区下では初めて70%を超える71.5%となりました。
そして、Webの勢いそのままに投票所に行き投票用紙を前にした多くの取締役達に思わぬインパクトを与えました。
各選挙区平均70個のワンイシュー政党・およそ100人に及ぶ候補者リストを目の前にして、誰に投票するとどんな政策を支持したことになるのか一目瞭然でした。
取締役達は、自分が実現したい政策をほとんど直接支持している実感を持って投票することができたのです。
ところが、肝心の選挙自体は無効に終わりました。
ありとあらゆる選挙区で全候補者が法定得票率を超えず再選挙となったのです。
旧与党の分裂から再選挙
初回の投票が不調に終わった直後、前与党・カレーライス党が分裂してしまいました。
日本人のアイデンティティである日本固有の文化・カレーライスの正統性の堅持を党是とするこの歴史ある保守政党が、「如何なる味であろうとカレーである事こそが本義」とする『カレー党』と、「日本人が試行錯誤の上培ってきたカレーの味こそがアイデンティティの根源」とする『カレー味党』と、真っ二つに割れました。
若い取締役達にとっては、国政に君臨し続けた絶対王者・カレーライス党がまさか分裂するとは、想像だにしなかった出来事だったのです。
ところが、ここ数十年比較的安定した集団となっていたため、若い取締役達はカレーライス党を、単に選挙で勝つために多数派を形成し、選挙運動のためのリソースを餌に代表者会議を思うがままに操る加齢臭漂うクソッタレ集団としか見ていませんでした。
ところが、選挙運動の真っ只中に分裂してしまったのです。
選挙に何のメリットがあるのか全く見えません。
が、一皮剥けば、誰よりも日本国政府株式会社を愛し、誰よりも理想に燃える情熱的な代表者でもありました。
今回、多くの若い候補者達が自身の理想を掲げ乱立する中で、その熱狂に触発されないはずがありません。
このカレーライス党の分裂によって、旧代表者達は自身の理想と情熱を剥き出しにしました。
むしろ若い取締役達は旧カレーライス党を大いに見直し、カレー党・カレー味党をはじめとする旧代表者会議を構成していた旧来の政党に対する信頼と興味を膨らませていきました。
選挙戦は混迷を極め、再選挙は77.7%という初回を上回る投票率を記録したにも関わらず、またもや全選挙区無効となりました。
再々選挙
2回の選挙無効を経て、候補者達は再び大きな動きを見せました。
党の統合です。デバッガは『パッチ党』という総合政党を立て、乱立したデバッガ系ワンイシュー政党に集合を呼びかけました。
一方で、これもまた多くのデバッガ系ワンイシュー政党の候補者はカレー党やカレー味党をはじめとする旧来の政党と政策を調整・共有する可能性を探り始め、旧政党と統合しました。
結果的に言えば、再々選挙では旧政党(カレーライス党が分裂したカレー党とカレー味党を含む)プラス新政党『パッチ党』の各党の候補者による選挙となりました。
従来の国政選挙と比較的近い形に落ち着いたわけです。
デバッガ達は自身の政策を常に発信し続け、しかもそれが取締役達の興味を惹きつける魅力的なコンテンツであったことは、彼らの最大の功績でした。
再々選挙では80.0%という記録的な投票率をマークしましたが、これもデバッガ達の活躍無しには実現し得なかったでしょう。
4ヶ月にわたる国政選挙
肝心の選挙結果ですが…、
大体いつも投票終わると忘れます。
取締役は自分の仕事や生活で忙しいんで。
ただ、投票が納得いったんで、日本政府株式会社の提供するサービスはきっと良くなって行くでしょうし、たまに失敗があってもまあ引き受けますよ、自分で選んだ代表者がやったことなんで。
けしからんが足りない
長々としょーもない妄想にお付き合いいただきありがとうございます。
現実の国政選挙とはルールも整合的ではありませんし、何らかのシミュレーションや、ましてや予言でもありません。
私は個人的に、現在の政治における最大の問題点が、政策どうこうの前に投票率低下だと考えています。
我が国の民主制では、主権者は国民です。
その国民の多くが手綱を離してしまった状態が投票率低下です。
そんな状態で選挙された議員による政治に、一体どれほどの正統性があるのでしょう?
ただ一方で、その解決策として、かつての選挙の姿、おらが村の祭りの復興をただ呼びかけても無意味でしょうし、そもそも的外れだと思うのです。
かつてと今と、過去と現在とは世界が違うんだと思います。
例えおらが村の祭りが復興したとしても、その祭りはおそらく私が思い描くものと全く違う姿になるんだろうと思ったのです。
どうだったでしょう?
やっぱりけしからんですか?